開催レポート/JMAマネジメント講演会ゼロから掴むリアルなインド
〜経済成長の実態と現地の肌感、そして未来の展望〜
2025年12月3日(水)

2025年12月3日(水)に第8回JMAマネジメント講演会をオンラインで開催いたしました。

今回の講演会は、ゼロから掴むリアルなインド~経済成長の実態と現地の肌感、そして未来の展望~をテーマに、株式会社hoppin 代表取締役CEO 滝沢 頼子氏をお招きしました。

当日は会員企業156名にお申込いただき、3つの論点に的を絞り、世界で最も急成長している経済大国インド、人口動態とデジタル化が牽引する経済の現在地、主要産業の伸長、都市と地方の暮らしの肌感を、写真・データ・現場エピソードで解説し、あわせて自動車・消費財等で成果を上げる日本企業を具体例に、インドの解像度を高めていただき、「今後のインドとの関わり方」をより具体的にイメージできるよう、分かり易く講説いただきました。
講演を通して質疑応答の時間が設けられ、参加者との活発な意見交換が行われました。

1.なぜ今インド?インド経済と産業の“現在地”を掴む

インドと聞くと「カレ―、暑い、汚い・危ない」といったイメージを持たれがちだが、実際に現地で暮らすとその印象は大きく覆される。例えば、日常のメニューに占めるカレーの割合は以外と少なく、地域によっては冬場に10℃未満の寒さになるため、コートが欠かせない。さらに、主要都市の中には治安の改善が進んでおり、夜間に女性が一人で外出できる比較的安全な地域が増えている。

なぜ今インドに注目が集まっているのか?

理由1:世界最速の経済成長&市場拡大

2027年には世界第3位の経済大国へ成長見込み、急拡大する中間層市場は、あらゆる業界にとって大きなビジネスチャンスである。

理由2:デジタル経済&スタートアップの急成長

ユニコーン企業が続々誕生し、世界的なIT/スタートアップハブへ。

理由3:豊富な人材&グローバル人材の供給源

生産年齢人口が世界最大であり、IT系の人材、英語が喋れる人材が多い。

人口は世界一に

インドの人口は2023年に中国を抜き世界最大となり、生産年齢人口は2050年頃まで増加が予測されている。

GDP(名目国内総生産)は世界4位に

GDPにおいて、インドは日本を上回り世界第4位となり、さらに近い将来、ドイツを抜いて第3位に浮上すると予測されている。

世界中の有名な企業の社長はインド人

インド系出身者が世界トップ企業のリーダーとして活躍する要因は、同国の多様性に富む社会環境が深く関与していると分析されている。異なる価値観が共存する社会でチームを率いた経験が、グローバル市場が求める高度な統率力の基盤となっているという見方がある。

ユニコーン企業の数は世界で第3位

ユニコーン企業とは、「評価額が10億ドルを超える、設立10年以内の未上場のベンチャー企業」のことで、インドはユニコーン企業の数がアメリカと中国に次いで世界第3位である。

富裕層・上位中間層の割合も増加中

低所得者層が減少傾向にある一方で、富裕層および上位中間層の割合は、2020年の8.5%から2030年には37%へ大幅に拡大すると予測されている。

スマートフォンの普及率の高さ

スマホの所有率も高まり、2030年には9割近くになると予想されている。

インドの製造業を振興する「Make in India」政策

インド経済はサービス業が中心で、製造業が占める割合は低い水準にある。この構造的な課題に加え、継続的な貿易赤字を抱えており、政府は製造業の振興を通じて雇用創出と貿易赤字の是正を目指している。その中核戦略として掲げられているのが「Make in India」だが、現状では製造業の成長は停滞しており、GDPに占める製造業比率は約14%に留まっている。この比率は、一次産業(農業など)の比率を下回る水準である。
政府は製造業比率を25%まで引き上げるという目標を掲げているが、現在のペースではその達成は困難な状況である。

製造業振興のための生産連動型優遇策(PLI)

中央政府は2020年以降、生産連動型優遇策(PLI)で重要分野の製造業に大規模かつ安定的な支援を展開している。しかし、州政府の独自なインセンティブは内容が変わりやすく、手続きの煩雑さが課題となっている。

2.生活者のリアル

メディアでは悪い部分が取り上げられがち・・・

インドの報道は、ネガティブな側面(危険性、不衛生、治安の懸念など)に偏りがちだが、実際に現地で見られるのは、そうした一画的なイメージを覆す、豊かな多様性と多面性に満ちている国である。

貧富の差の大きさ

全体的に南の方が豊かで、州間の格差も大きく、最も豊かな州と貧しい州では、一人当たりの平均収入が10倍以上異なる。

言葉と文化の差

インドでは、公用語のヒンディー語話者は約4割に過ぎず、準公用語の英語話者はエリート層に限定され約2割に留まるため、人口規模では中国に匹敵する巨大な非英語圏を形成している。さらに各州の公用語が優先される中で、中央政府のヒンディー語共通語化の試みは、特に南インドの強い反発に遭い、全国民が使用する単一の共通語は不在のままである。

以下、Q&Aセッションの内容

Q:インドに進出している工業系製造業の日本企業が多い地域はどこか。

A: デリー周辺、マルチ・スズキの主要拠点はグルガオンにあるため、そのサプライヤーも同地域に集中しており、トヨタ自動車の主要生産拠点はバンガロール近郊に位置し、その隣のチェンナイも他の日系および外資系も多く進出している。インドにおける日本人駐在・在留者数は、デリー・グルガオン地域が圧倒的に多く(約5,000人)、次いでバンガロールとチェンナイが同程度(それぞれ約1,000人)で、ムンバイは,1,000人を下回る在留者数となっている。

Q:ITは技術が強くていいと思うが、なぜ製造業は伸びないのか。

A: 所説あるが、インドが製造業に向かないとされる背景には、インフラの不備と均一な生産を苦手とする国民性・気質が指摘されている。

Q:巨大なGDPと優秀な人材を持ちながら、インフラ整備の停滞と贈収賄の蔓延など課題に直面しているが、インフラ整備について進まない理由と今後の見通しを聞かせてほしい。

A: モディ政権下でもインドは地方分権的で、州政府の権限が強いため、中国のような中央主導による爆速のインフラ整備が難しい。オリンピック招致のような国家プロジェクトが、この状況を一変させ、インフラ整備を急速に進める唯一の鍵になりうると期待している。

Q:実際に生活や仕事をする中で、カースト制度の影響を肌で感じることはあるか。

A: 私自身が外国人であるため、直接的な影響は感じていない。富裕層の友人の見解では、都市生活におけるカーストの影響は薄れている。しかし、これは特定の層の視点であり、カーストに基づく差別が法律で禁止されている一方で、制度そのものが否定されたわけではない。特に地方部においては、依然として根強く残っており、偏見が消滅したとは言い難いのが現状。

Q:インドの複雑な多言語環境は、滝沢さんのビジネス展開において、どのようなメリットとデメリットを生じさせるか。

A: インドでのビジネスにおいては、交渉相手やカウンターパートは英語が堪能なため、駐在員レベルでの業務上の支障は少ない。ローカル層とのコミュニケーション課題は、現地の適切なマネジメント層を介することで解消可能である。英語が喋れなくてもビジネスは成功するが、現地の言語(ヒンディー語など)で簡単な挨拶や会話ができれば、人間関係の構築や円滑化になり得る。

Q:グジャラート州にもある地方都市を含めスマホ普及、電子決済、Ola、Uber、クイックコマースが普及しているか。

A: ビジネスや駐在の拠点となる主要都市を中心に解説したが、地方都市では現金が依然として強い力を持つほか、OlaやUberといった配車プラットフォームの利用可否も、その地域のインフラや市場環境に大きく左右されるのが実情である。ゴアのような観光地では、独自の規制を潜り抜ける形で、州政府や地元組織が主導する独自の配車アプリが運用されている。また北部のレイ・ラダックでは、デジタル決済はできるが、即時配送は不可能で、地域ごとに利用可能なテクノロジーの限界点が異なるのが現実。

3.日本企業の成功事例とそこから見えるチャンス

インド進出済みの主な日系企業

2024年10月時点でインドに進出している日系企業は約1,400社(前年比2.5%増)が展開している。産業別では製造業が約5割を占めるが、全体の15%に達した中小企業の進出も目立っており、インド全土で1万人弱の日本人が現地で活動をしている。14億人という巨大な人口を抱えるインドにおいて、日本人の数はまだごくわずかである。
有名な日本企業を紹介すると、マルチ・スズキは5割近いシェアを誇る圧倒的なガリバー企業で、Uberを配車すれば、スズキの白い車両が目の前に現れるほど、街中の風景に溶け込んでいる。
ヤクルト本社とフランスのダノンの50:50合弁として2005年に設立、2008年にヤクルトを発売。スーパーやECに加えてヤクルトレディーの戸別配送で展開。ヤクルトライトやマンゴー風味などラインアップを拡充。
サントリーはインド専用ブランドOak smithを展開しているが、州ごとに異なる複雑な酒税制度や規制により、全国一律のマーケティングが極めて困難である。グルガオンでは1本約1,500円という中間層向けの手ごろな価格を実現しているが、州を跨ぐと価格が1.5倍~2倍になることも珍しくない。
日清食品はインド市場の好みに合わせ、独自のスパイスを効かせたインド限定フレーバーを多彩に展開している。その突き抜けた辛さと珍しさは、日本人駐在員の間でも評判で、帰国時のお土産として定着している。
ユニ・チャームはオムツなど衛生用品が主力である。
住友商事は合弁会社KRISUMIを立ち上げ、日系企業として初めてインドの大規模なマンション開発に乗り出した。

JETROの調査結果によれば

在インド日程企業の業績は極めて堅調である。2025年の黒字企業割合は歴代2位となる75%に達し、半数が営業利益の改善を報告している。8割の企業が事業拡大に意欲を示す中、2026年にはさらなる業績向上を見込む企業が6割に上り、成長サイクルは一段と加速する見通しである。
製造業全体は堅調に推移しているものの、直近の進出企業に限れば黒字見通しは5~6割にとどまる。全体の好調な数字のみで判断し、早期の収益化を楽観視することは、実態を見誤るリスクがある。実際には進出から10~15年を経て、ようやく収益が本格化する傾向にあり、中長期的な視点での事業継続が不可欠である。

日本企業にとってインドビジネスの障壁になるインド標準規格局(BIS)規制

インドでは広範な品目に対して、BIS認証の取得が義務化されている。国内生産に不可欠な部材が対象となる場合、認証取得には複雑かつ長期的なプロセスを要するため、これが輸入拡大における主要な技術貿易障壁になる。

ビジネス環境上のリスク

JETROの調査によると、インド進出における主要リスクとして「税制・税務手続の煩雑さ」が上位に挙げられている。また、労働コスト面では、日系企業において年次10%程度のベースアップが常態化しており、人件費の急速な上昇が収益を圧迫する要因となっている。

Q:インドにおける対日観、対中観は。

A: 現地での対日感情は極めて良好であるが、あくまで漠然とした好意に過ぎない。日本ブランドに対するリスペクトや日本式、日本人であるプレミアム付加価値はないと思う。
対中観は2020年の国境紛争以来、インドの対中政策は非常に厳格化しており、政府の規制によって中国のサイトやアプリへのアクセスが制限されている。私は中国関連の仕事も担当しているため、VPN技術を用いて、必要なサイトの閲覧を行っている。
現在、インドでは中国人に対するビザ発給が厳しく制限されているため、街中で中国人を見かけることは皆無に等しく、それに伴い本格的な中華料理文化も途絶えている。在印3年を超えるが、中国人に出会ったのは片手で数えるほどであり、遭遇した際には思わず駆け寄ってしまうほど、極めて珍しい光景となっている。インドにおける対中感情は、根深い拒絶反応を伴っている印象があり、国民全体に極めてネガティブな認識が定着している。

Q:中国のことをよく思っていないとの事だが、中国製の品物は消費財を含めて多いのか。

A: インドの消費市場ではXiaomi(シャオミー)、OPPO(オッポ)、vivo(ビボ)、OnePlus(ワンプラス)といった中国ブランドが圧倒的なコスパを武器に依然として高いシェアを維持している。一方で政府の姿勢は極めて厳格であり、BYDの現地製造計画の棄却やシャオミーへの巨額制裁に見られるよう、中国系企業は地政学的リスクに伴う不遇な立場に置かれている。しかしインドの産業基盤は部品製造において未成熟であり、中国サプライチェーンへ依存している側面がある。

Q:人口ボーナスのピークを迎える2050年に向けて、インドが世界のパワーバランスをどう塗り替えるかに注目している。米中と肩を並べる存在となるのか、あるいは国内課題を抱えつつもキャスティングボートを握る大国に留まるのか。インドが世界の頂点を争う覇権のポテンシャルの正体をどう捉えるか。

A: 経済力では米中に匹敵する規模に達するだろうが、国家としての立ち振る舞いは、アメリカのような唯一無二のリーダーを目指すのではなく、独自の立ち位置を堅持する実利主義的な調整役の地位を得るのではないかと考える。

Q:駐在員がSocietyに住まない場合、どのような場所に住んでいるのか。

A: 地方都市における駐在員の住居環境は、ホテルのレジデンスを生活拠点にする方もいれば、企業主導による専用宿舎の建設、あるいは中層マンションを全棟一括借り上げをしたり、その形態は極めて多層的である。

Q:昨今の世界情勢により、インドでもカントリーリスクが具体的に経済へ影響を及ぼし始めていて、これに関連して特に注意すべきカントリーリスクがあれば知りたい。

A: インドにおけるカントリーリスクは、主に法規制の流動性に集約される。製造業の現場からは税制や輸出入規制が頻繁に変更されることへの対応コストを懸念する声が聞かれる。一方で地政学的リスクについては限定的で、パキスタンとの国境付近(北部)での小規模な紛争により、一時的な出張制限や事業の停滞が生じるケースはあるものの、それが現地の衝動行動や経済基盤を揺るがす事態には至っていない。突発的な大規模紛争に発展する可能性は低く、地政学的リスクはコントロール可能な範囲内にあると思う。

Q:短期間でインドの象徴的な活気を体感するなら、どの都市がおすすめか。

A: 大都市という括りであれば、デリー、グルガオン、ムンバイ、バンガロールが筆頭に挙げられるが、渡航の目的に応じて最適な選択肢を吟味する必要がある。

最後に滝沢 頼子氏よりメッセージ

滝沢 頼子(たきざわ よりこ) 氏

滝沢 頼子 氏

株式会社hoppin
代表取締役 CEO

本日は入門編ということで、全体像をお話しました。ただ、インドの真の姿は現地へ足を運び、直接交流することで初めて解像度が上がります。多層的なインド市場のリアリティを肌で感じ、ビジネスの箇所を掴んでいただくことをおすすめします。