開催レポート/ソーシャルグッド経営探究フォーラム2023年度 第3回(2024年2月7日(水))

「好奇心」から行動や自立心が育まれる。
日本から世界に羽ばたくリーダーを生むための社交の場を作る

訪問先:キッザニア東京(KCJ GROUP 株式会社 (https://www.kidzania.jp/corporate/))
講演者:住谷 栄之資 氏
KCJ GROUP株式会社 名誉会長

<プロフィール>
1943年和歌山県生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学商学部卒業後、藤田観光に入社。直島開発プロジェクトを手掛ける。69年、WDIに入社後、取締役として主に外食事業に経営参画。ケンタッキーフライドチキン、トニーローマ、ハードロックカフェなどのライセンスを取得し、開発運営。同社を60歳で退職後、キッズシティージャパン(現:KCJ GROUP)を立ち上げ、日本でのキッザニアのライセンスを取得。2006年にキッザニア東京、09年にキッザニア甲子園をオープン。2022年6月 KCJ GROUP株式会社 名誉会長に就任、現在に至る。

第3回目のSocial Goodフォーラムは、キッザニア東京・甲子園・福岡を運営するKCJ GROUP株式会社を訪ね、子供向けの職業体験型テーマパーク「キッザニア東京」を見学しました。その後、創業者の住谷名誉会長と対話セッションを行いました。

1.キッザニア見学

まず、テーマパークを見学しました。初めて入った参加者も多く、子供たちが真剣な眼差しで職業を選び、元気に仕事に取り組み、対価を得る体験をしているシーンを目の当たりにしました。
施設は、「本物志向」(ANAの実際の機体を活用する等)で作られており、また街は「夜の設定」で、大人になった気分で過ごし、仕事を体験してもらうなど、子供たちを“大人扱い”しています。さらには、SDGsや高齢化対応など、現在の日本の社会課題に触れられるブース設定もあり、社会性を高める趣向を凝らした環境づくりをされていたことが印象的でした。

2.住谷名誉会長ご講演(抜粋)

メキシコでキッザニアに出会い、還暦時に立ち上げた日本事業

私は、観光・飲食等のビジネスにおいて、多数の事業開発、M&A、MBOを経験してきた。今の経営トレンドを、1960年代からまさに実体験してきたといえる。これらの体験から、私が事業経営で大切にしていることは、「社会情勢・課題を背景に行動を起こす」「理念と事業性の両立」「失敗は単なる失敗ではなく“経験”」である。
還暦で前職を退職した際に、孫と一緒にメキシコに旅行をした。そこで、当時流行していたキッザニアに出会い、「これを日本に持ってきて、日本の子供達に体験してもらいたい!」との思いに駆られ、創業に着手した。
当時から私は、少子高齢化・景気低迷・ニートなど、子供たちを取り巻く当時の社会情勢に危機感を感じていた。学校の勉強だけでは、これからの社会を生きていくのに苦労するだろう、インターンなど職業経験をしながら社会を知ることが良いのではないか、と考えた。

職業・社会体験を通じて、子供達の“生きる力”を育む

社会に求められている人物像は、時代の変化によって大きく変わってきている。かつては「高学歴・勤勉・協調性」などが大事であったが、バブル崩壊後は「自律型人財」が必要といわれ、さらにこれからは価値観の多様化がさらに進み、学歴は人生を保障しない時代である。だからこそ“生きる力=人間力”の涵養が求められる時代だ。私は、そんな人財育成をしたいと思っている。
キッザニアで育むのは、「Passion+4C(Collaboration、Creativity、Critical Thinking、Communication)」である。職業・社会体験を通して、Education+Entertainment=Edutainmentで子供たちの生きる力を育みたい。しかしながら、Passionの醸成はとても難しいと感じている。
この事業を始めて、私もいろいろと子供達から学んでいる。一番は「好奇心」の大切さである。好奇心があれば、誰でも行動が起こせる、自立心が育まれる。子供たちが職業体験している間、親は手出しできない(一人で成し遂げる経験を重視しており、親がその場に入れない設定にしている)。だから親たちも、子供たちの体験を見て、多くのことに気づく。子供の成長は親・大人の成長でもある。

私たち大人は、次世代を担う若者たちをいかに応援・支援できるか

日本にいると、安全安心の社会で、ある意味とても心地がいい。コミュニケーションも簡単で、あうんの呼吸であまり細かく話さなくても話が伝わる。この社会の中だけで生きていると、「これでいいんだ」と思ってしまい、新たな行動や挑戦が生まれにくくなる。
私は、若い人たちに、「Be a Global Leader!」と言っている。日本から世界に羽ばたくリーダーを輩出したい。キッザニアは、3~15歳を対象とした施設だが、高校生から大学生の若者たちへの機会提供を行うため、海外からの留学生と日本の大学生の交流の場を創っている。有楽町に「GLOBAL VILLAGE 有楽町ハウス」を創り、GlobalとSocialの感覚を磨けるような対話をたくさん用意している。
GlobalもSocialも、共通点は「社交」である。海外の人たちも含め、多くの人に会い、一緒にやっていく経験の中で、「違いがわかる」ようになる。宗教観や食文化などがその典型。その「違い」から様々な気づき・刺激を得ていけるのだろう。「社交」によって、五感を通した人間力が形成されていく。私の挑戦はまだまだ続いていく…

高橋ゆき氏 コメント(コーディネーター)

高橋 ゆき 氏

株式会社ベアーズ
取締役副社長

  • キッザニアの見学や尊敬する住谷名誉会長のお話を伺い、あらためてこの事業の意義深さを実感している。
  • 若者世代のために、大人は何ができるのか。住谷さんは大変重要な課題の解決に挑戦している。当社もフィリピンに会社を持っているが、グローバルという観点では、現地の人たちに関心を持ち、リスペクトする姿勢が無いと良いコミュニケーションができず、事業はうまくいかない。そういった経験を増やすために、海外から来日する人たちとの交流の機会を増やすことは非常に効果的だろう。
  • 私も先日、「湘南ホクレア学園」を見学する機会をいただいた。同校は、公教育ではなく独自教育を行い、子供達の個性・自立性・主体性を育むカリキュラムを実施しており、大変興味深い。通常の小学校に通っている子が、あえてこの学校を選んで転校してくることもあるとのこと。こういった教育の方法も重要なのではないだろうか。
  • 企業や私たちができることは限られているかもしれないが、交流機会を増やしていくための企業参画、特にスポンサードはもっと必要だろう。当社も含め、あらためて若い世代の育成を考える機会となった。

プロフィール

家事代行サービスのベアーズを創業。家事代行、ハウスクリーニング等を展開、業界のリーディングカンパニーに育てる。各種ビジネスコンテストの審査員やビジネススクールのコメンテーターを務め、また家事研究家、日本の暮らし方研究家としてもテレビ・雑誌などで幅広く活躍中。