開催レポート/ソーシャルグッド経営探究フォーラム2023年度 第2回(2023年11月2日(木))

ビジョンは「バリアバリュー」
バリア(障害)をバリュー(価値)に変え、社会を変革していく

訪問先:株式会社ミライロhttps://www.mirairo.co.jp
講演者:垣内 俊哉 氏
株式会社ミライロ 代表取締役社長

<プロフィール>
1989年生まれ。2009年民野剛郎氏とValue Added Networkを創業、2010年株式会社ミライロを設立、2012年立命館大学経営学部経営学科 卒業、2015年日本財団パラスポーツサポートセンター 顧問、2016年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 アドバイザー、2019年立命館大学総合心理学部 訪問教員、龍谷大学 客員教授、2022年国家戦略特別区域諮問会議 有識者議員
【主な受賞歴】
日経ビジネス THE 100 日本の主役、経済産業省 ダイバーシティ経営企業100選、Japan Venture Awards 2018 経済産業大臣賞、日本能率協会 KAIKA Awards 2019 KAIKA賞、経済界・金の卵発掘プロジェクト2021グランプリ
著書:
『バリアバリュー 障害を価値に変える』(新潮社)
『10歳から知りたいバリアバリュー思考 自分の強みの見つけかた 』(KADOKAWA)

1.垣内氏の生い立ちと創業

私は、「骨が弱くて折れやすい」魔法にかけられて生まれてきた。骨折は20回、人生の5分の1を病院で過ごしてきた。幼少期から「歩きたい、走りたい、普通になりたい」と思って育ってきたが、今日までそれは叶わなかった。
しかしながら、「歩けなくてもできること、ではなく、歩けないからできることがある」とあるとき気がついた。それで二十歳の時起業。障害は、プラスに、価値に変えていけると確信している。そこで、私(当社)のビジョンは「バリアバリュー」、すなわち、バリア(障害)をバリュー(価値)に変え、社会を変革していくことである。
この病気は遺伝性で、父も、弟も同様。外に出ることもなく生涯を終えている先祖も。幸いにも私は恵まれて、学校に行けて、またこうして働けている。不便は多いが、だからこそ変えていかねばならない。もし自分が家庭を持てば、子供にも遺伝するかもしれない。その時に子供が苦労しない社会を創りたい。そう願って仕事に向かっている。

2.多様性と向き合った日本の歴史

日本の多様性に関する歴史は非常に古い。飛鳥時代には、障害者にも口分田を与えられており、税も課されていた。なんと驚いたことに、この時代から障害者が社会で平等に扱われていたのである。
時代は遡り江戸時代。全15代の将軍のうち2人が障害者。でも排除されず、サポートの体制が築かれており、成熟社会だったと言える。
第二次大戦後、社会の中に「福祉」が位置付けられた。法定雇用率やバリアフリー化、また2016年には障害者差別解消法が制定され、徐々に障害者を軸とした多様性の社会が形成されてきた。バリアフリー化率は90%以上。欧米よりも圧倒的に進んでいる。
障害者は日本の人口の8%(965万人)。左利きの人が10%と言われるが、それに匹敵する。障害者が物を買う、サービスを利用できる時代になった。すなわち、これからは、単なる社会福祉ではなく、「市場」として見るべきである。経済活動、地域活性、ビジネスとなり得るのだ。

3.障害者に立ちはだかる3つの「バリア」

日本は、障害者が外出しやすい社会であるが、“外出したくなるか”は別。健常者や企業の反応は、「無関心」か「過剰」。人も企業も、向き合い方が2極化している。
もっと、マイノリティの人たちの立場になって考える必要がある。歩けないことが障害なのではなく、社会の側に障害(バリア)がある。そのバリアは「環境、意識、情報」の3つ。

① 環境

  • 施設…バリアを無くすのではなく、最初からつくらない配慮。もしバリアが残っても、開示・発信をすることでミスマッチを防ぐことができる。
  • 商品…マーケティングが必要。障害者を商品企画に巻き込む「インクルーシブな開発」をしよう。「だれ一人取り残さない商品づくり」を目指して。

② 意識

  • 例えばエレベーター、30代以上の人はエレベーターを車いすの人に譲らない。これは教育の問題。20代以下は障害者と一緒に教育を受けている。企業においてはより顕著。障害者が離職している現状がある。
  • 風土づくりという点では「ユニバーサルマナー検定」がおすすめ。特別な知識や、高度な技術は不要。誰もが身に着けて当然の領域にしていきたい。
  • 対応「過剰」にならないためには、「押し付けでなく、障害者に選択肢を」。「ハードを変えられなくても、ハートは変えられる。」

③ 情報

  • 「Webアクセシビリティ」の向上が急がれる。自動読み上げ機能がスマホ等についているが、90%の企業Webサイトは読み上げ機能をつけていない。ECにおける訴訟の増加に伴い、企業の対応も進めていく必要がある。
  • 障害者対応のDXを進めている。障害者手帳は1949年からあるが、なんとフォーマットがバラバラで世の中に283もある。これを1つにまとめ電子化したのがデジタル障害者手帳「MIRAIRO ID」。障害者と企業を結びつけるプラットフォーム。現在3,800社に導入・利用されている。

4.今後の日本の在り方 ~多様性溢れる社会に向けて~

障害者対応は、社会貢献だけでなくビジネスに進化している。世界で暮らす障害者18.5億人。13兆ドルの市場があるが、インクルーシブな製品等を提供している企業の割合5%のみ。まだまだできることはたくさんある。
また、高齢者のニーズは、障害者のニーズを統合した状態である。障害者の様々なニーズを満たす事業は、超高齢社会の日本にとって必要なことである。
誰と向き合うべきか、どう対応すべきかを考えることで、もっとビジネスとして成長できる。「社会性と経済性」。ビジネスとして、何ができるかを考え、実践して、業界の手本・規範を皆で創ってほしい。多様性対応が1,300年前から始まっているこの日本だからこそ、ハードも、ハートも、デジタル領域も、世界の手本となる、誇れる日本を実現してほしい。

高橋ゆき氏 コメント(コーディネーター)

高橋 ゆき 氏

株式会社ベアーズ
取締役副社長

  • 修学旅行時の苦い経験(旅行は不便ばかりで行きたくなかったという思い出)が垣内さんのビジネスの種になったとのお話がありました。
  • 単にソーシャルグッドであるだけでなく、また、社会課題をマネタイズしただけでなく、「共感」を生み出し、文化・思想を向上させているのが垣内さんの仕事。垣内さんの言葉が「言霊」になり、様々な思いやアイデアが次々と実現しています。
  • 今回のフォーラムでのご縁が、参加された皆さんの事業創造への行動力に繋がることを願っています。

プロフィール

家事代行サービスのベアーズを創業。家事代行、ハウスクリーニング等を展開、業界のリーディングカンパニーに育てる。各種ビジネスコンテストの審査員やビジネススクールのコメンテーターを務め、また家事研究家、日本の暮らし方研究家としてもテレビ・雑誌などで幅広く活躍中。