開催レポート/ソーシャルグッド経営探究フォーラム2023年度 第1回(2023年8月4日(金))

経営者として一番大切なことは、「良い組織を作ること」
目指しているのは“世界平和”

訪問先:株式会社ヤッホーブルーイングhttps://yohobrewing.com/
講演者:井手 直行 氏
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長

<プロフィール>
1967年(昭和42年)生まれ。ニックネームは『てんちょ』。国立久留米高専を卒業後、電気機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。地ビールブーム終焉の後、再起をかけ2004年楽天市場店の店長としてネット通販事業を軸にV字回復を実現。2008年より現職。フラッグシップ製品『よなよなエール』を筆頭に、個性的なブランディング、ファンとの交流にも力を入れ、クラフトビール国内約600社の中でシェアトップ。『ビールに味を!人生に幸せを!』をミッションに、新たなビール文化の創出を目指している。
著書:『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)

1.ヤッホーブルーイング社の概要

同社は「ビールに味を!人生に幸せを!」を掲げ、1997年の創業以来27年、クラフトビールを提供している。もともと、星野リゾートの子会社としてスタートし、初代社長は星野リゾート現社長の星野氏。
現在、クラフトビール業界は日本に700社以上があるが、同社シェアは圧倒的No.1。この20年で売り上げは20倍になった。社長の井出さん(ニックネーム:てんちょ)は創業時に入社し、2008年から社長を務めている。

2.苦境に陥り、もがいた時期

現在は成功を収めた状況にあるが、大変苦しい時期を経験している。90年代後半の地ビールブームで当初は順調だったが、2000年にブームは去り、売上げは激減。当時300社あった地ビール会社が200社に。酒屋に営業に行っても門前払い。キャンペーンを打ったが返品の山で、倉庫に入らず、駐車場に数千ケースのビールが賞味期限切れに。缶ビールを廃棄し腱鞘炎になる日々を数年送ったこともあった。
社内の雰囲気は悪化し、社員が次々と辞めていく。営業と製造が互いに陰口で文句を言いあう険悪な状況に。ある日中途入社した社員が「社長、うちの会社の朝礼、お通夜みたいですね・・・。」 このままではだめだ、基本から勉強し直し、会社を立て直さねば、と一念発起。

3.人の力を引き出すために取り組んだこと

まずは「チーム作り」に取り組んだ。自ら動かない、他人任せで消極的な社員を変えたい、と。外部のチームビルディング研修に参加し、それを社内に導入、井出社長自らが講師を務め、毎年希望者を募り、“変われる人”から変えていくことに。大事なのは社員一人一人の「強みの自己理解」と「自己開示」。それが相互理解に繋がる。
また、朝礼も、「雑談朝礼」に変えた。仕事の話、特に業務指示は一切しない、20分間雑談を続け、互いの考えや関心事、コンディションを把握する。いい組織を作るには「コミュニケーション」の質と量が必要。互いの強み・弱みをうまく組み合わせることで組織の力を引き出していった。
このチーム作りとコミュニケーション改革の継続で、徐々に雰囲気は改善、結果「働きがいのある会社」ランキング7年連続ベストカンパニーに選出される。また、社員の熱量が高まることにより、顧客(ファン)との熱量も高まる。社員とファンの熱量の相乗効果で高い事業成長を実現してきた。

4.これからの自社をどうするか

社員を巻き込んだ井出社長の努力により、社員全員が志・ミッションを共有することに成功。主力製品「よなよなエール」のブランドキャラクター「知的な変わり者」はいつしか企業文化になろうとしている。まさに、「個性を伸ばす」「出る杭はどんどん伸ばす」マネジメントをこれからも実践していく。
井手社長は「目指しているのは“世界平和”」という。社員だけの輪から、取引先や顧客など、周りの世界も幸せにし、「いつかきっと世界を平和にできる!」と信じて。

5.井手さんの「経営者としての持論」とは

  • 経営者として一番大切なことは、「良い組織を作ること」。これからもよい組織を作り続ける。組織文化は維持するものではなく、企業規模が拡大しても「さらに良くする」という感覚が必要。維持したとたん、思考停止に陥るものである。
  • 世の中の会社の最大の問題は「人間関係」。この問題を解決すれば、企業のたいていの問題は解決する。
  • 「民主主義経営」を大事に。合意形成には時間がかかるが、多くの意見が出る。だからいい打ち手が出る可能性が高い。そして納得感が高く、決まったことが実行される。だから成果が出やすくなる。
  • 「社員は家族、顧客は友人」。自分の子供や友人が悩んでいたら、手を差し伸べるでしょ。社員やファンには徹底的にサポートする。

高橋ゆき氏 コメント(コーディネーター)

高橋 ゆき 氏

株式会社ベアーズ
取締役副社長

  • 「会社づくりをとても丁寧にされている」経営者の姿に触れました。企業規模が拡大しても、組織風土を進化させるんだ、と、腹をくくった経営者の強い意志・覚悟を見ました。
  • 「幸せは伝播する」。周囲の人の幸せを考えると、さらにその輪が広がるもの。それを実践している若い社員の輝きにもたくさん触れることができた訪問でした。
  • 井出社長(てんちょ)の「世界に挑戦したい、今後もクラブとビールのリーダーとして市場をけん引したい」との夢を、是非とも活力あふれる社員の皆さんと共に実現していただきたい。そして、「知的な変わり者」であり続けていただきたいと思います。

プロフィール

家事代行サービスのベアーズを創業。家事代行、ハウスクリーニング等を展開、業界のリーディングカンパニーに育てる。各種ビジネスコンテストの審査員やビジネススクールのコメンテーターを務め、また家事研究家、日本の暮らし方研究家としてもテレビ・雑誌などで幅広く活躍中。