動き出したi-Construction

~ローカル企業の挑戦~

立命館大学
理工学部
建山 和由 氏

国が目指したi-Construction政策の背景

日本は2010年をピークに人口が減少しており、20~60歳までの労働人口も減っています。日本における生産年齢人口の推移では、2015年を起点にすると、30年後には69.7%と、30%もの減少が予想され、30年後にはあらゆる産業で人手不足になっているでしょう。

建設業界は今でも担い手不足が深刻ですが、今後生産年齢人口の減少に連動する形で税収も減り、インフラに対する投資予算は縮小していくものと推定されます。インフラに対する投資は1990年代をピークに減少し、新設工事も半分以下に減少する一方、維持・補修工事は増加傾向であり、すなわち、複雑で難しい仕事が増加することを意味しています。また、豪雨、地震、強風などの自然災害については、過去最大の災害に備える形で基準が設定されるため、大きな災害が起こるたびに基準は更新され、防災対策の費用は増えざるを得ない状況です。

建設業界が変わらなければならない理由は、
技術者不足
インフラ投資予算の縮小
インフラの維持修繕・更新、災害対策の強化をはじめとする工事の増加
が挙げられます。
建設業を取り巻く課題に対応するためには、これまでの延長線上の議論では対処できなくなってきています。

建設産業の実情を他の産業と比べると、賃金水準は全産業平均の76%、年間労働時間は全産業平均の118%、年間の死亡者数は全産業の32%と、「きつい、汚い、危険」の3Kを脱しきれていません。その理由として、労働人口が微減だったことに対し、パイが縮小し、結果として生産性を上げる必要がなかったことが挙げられます。そこで、建設業界は生産性を大幅に改善する可能性があるとして、i-Constructionがスタートしました。

i-ConstructionはICTの活用、標準化・工場生産、発注の平準化を推進し、「きつい、汚い、危険」といった3Kを、「給料、休暇、希望」の新3Kの実現に向け、体質改善を行っています。

ICT技術の活用として、はじめに取り組んだのは土工分野です。手順を従来の方法からドローン
よる3次元測量やICT建設機械による施工等に変更することにより、検査が省力化するなどの効果が出始めています。ICを活用した生産性向上への取組みは、舗装、浚渫(しゅんせつ)、橋梁、下水へと拡げられています。

映像を活用したマネジメント技術

ユニークな取組みの事例を紹介します。映像を活用したマネジメントの高度化を行ったのは、愛知県小牧市の可児建設です。河川堤防内の樋管(ひかん)構造物の撤去に伴う堤体掘削盛り土工事において、4か所のカメラから定点撮影を行い、映像をデータベース化しました。

当初は3次元CIM(Construction Information Modeling/Management)でのデータ共有を試みましたが、技術的に難しく、動画映像での情報共有・情報活用を行うことにしました。動画の確認は指定時間を自動出力(タイムラプス)し、30~900倍速で再生することで重機の動線や作業内容が確認できます。映像は毎日撮影し、インターネットなどでデータベースに送ります。デジカメ写真やGPS情報(テキストファイル)、写真もデータベースに取り込み、時間、場所などで自動的に振り分けることによって、情報のリスト化・可視化が実現しました。

現場映像活用の利点として、3点が挙げられます。
映像の記録機能の活用効果
不具合、事故が起こった際の原因分析等やアーカイブ化による後発工事の事前検討、施工計画の検証とそのフィードバック、管理業務の簡素化(膨大な書類の削減)

社員の技術教育での活用効果
技術者個人の技能への依存度が高い中小工事に対して、バーチャル教育による若手社員の経験知向上

その他の効果
発注者と受注者の現場情報の共有促進、不安全行動の抑止、現場の整理・整頓

2017年3月、JICE(国土技術研究センター)の工事記録映像活用研究会は、この事例を基に「工事記録映像活用 試行要領・同解説」をまとめました。ローカル企業の試行工事から国の標準化が生まれるかもしれません。

映像CIMはシンプルな情報から専門技術を要する情報まで幅広い情報を含んでおり、利用者の技術レベルに応じて選択することで有効活用できます。現場での試行の積み重ねとその成果の共有が、映像CIM技術の高度化に繋がっていくものと期待されます。

ICTを導入することを目的とせず、目的を決めてからICTの活用を考えた方が確実な効果が得られやすく、現場における技術開発の機運の高まりが最大のポイントと言えるでしょう。

働き方改革と組織改革

i-Constructionを契機とした取組みは、基準やマニュアルが柔軟に見直されている点でも画期的です。管理業務はICTが得意とする分野です。管理業務をICTに任せ、技術者が現場回帰している事例や新技術の導入事例を紹介します。

大分県の測量会社、コイシは、従業員の半数が女性という、土木業界では大変珍しい企業です。彼女らの多くは子育て中の母親という、これまでにない就労層を採用し、未経験者でも受講できるCAD講座でスキルアップを行っています。従来の技術者は、現場の測量業務と帰社後のデータの整理、データの作成を行っていましたが、現在では技術者は現場の測量業務に専念し、多くの現場を担当できるようになりました。

京都サンダー(京都府)では、建設ディレクターを育成しています。建設ディレクターとは、事務職の職域拡大と女性技術者の復帰ポジションです。これまで、現場技術者は現場で測量後、書類作成業務で長時間労働を行っていましたが、建設ディレクターが専門スキル習得し、ITとコミュニケーションスキルで現場支援を行い、企業全体の生産性を上げています。

施工管理用アプリを搭載したスマートフォンの活用では、現場写真管理や出来高管理で合理化している事例があります。また、屋根工事にドローンを使って3D測量をし、3D CADで設計・施工計画・積算を行い、プレカット作業を行うことで、瓦職人の実質作業は最後の屋根上作業だけ、となった事例もあります。

外国人技術者雇用の事例としては、CADオペレーターがあります。CADは英語のオリジナル版の方が情報量が多く、英語でCADを学び、CAD操作にも優れている外国人技術者の活躍で、仕事の幅も広がっています。

i-Constructionにより、これまで建設に関わりのなかった人たちが加わることにより、結果的に技術者、専門家たちが少なくなったとしてもやっていける、そういった時代になっています。

i-Constructionが動き出して3年が経ちました。当初想定していなかったユニークな取り組みが次々と出てきています。特にローカルの中小企業から注目すべき取組み事例が増えており、建設業界は確実に動き出しています。建設業界を活気ある産業に高められる時代に、私たちがいることを強く感じています。(終)